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入試で役立つ化学 シュウ酸について

2025年06月14日

今回はシュウ酸について書いておこうと思います。

シュウ酸とは

シュウ酸は漢字では「蓚酸」と書き、「蓚」はシュウ酸を多く含む植物「蓚菜(しゅうさい)」のことを指しているそうです。シュウ酸は自然界の多くの植物に含まれています。例えば、ほうれんそう、たけのこ、さつまいも、ごぼうなどに含まれていて、これらの食品を茹でるとシュウ酸が水に溶け出してきます。シュウ酸は分子を構成する物質で、分子式は、H2C2O4または(COOH)2です。(COOH)2は示性式というべきものですが、有機化合物なのでこう書かれることも多いです。構造式は、HOOC-COOHとなります。水和物はH2C2O4・H2Oです。化学の教科書を開くと、シュウ酸は酸と塩基の反応の章に2価の弱酸の一つとして、酸化還元反応の章に還元剤の一つとして、アルコールと関連化合物の章にジカルボン酸の一つとして紹介されています。それほど大きく扱われている物質ではありません。ところが、大学入試問題を解き始めると、問題の中によく登場する物質なのです。問題の中では、シュウ酸は中和滴定や酸化還元滴定の標準試薬として使用されています。

 

 

滴定実験の標準試薬

 

シュウ酸が登場する大学入試レベルの問題を見てみます。よくある中和滴定の問題です。

 

<実験1>

①シュウ酸二水和物H2C2O4・H2Oの結晶3.15gを水に溶かし、メスフラスコを用いて正確に500mLにした。

②水酸化ナトリウム約4gを水に溶かして1000mLの水溶液をつくった。

③①でつくったシュウ酸水溶液10mLをホールピペットで正確にはかり取り、コニカルビーカーに入れた。②の水酸化ナトリウム水溶液をビュレットを用いて滴下すると、中和点までに10.2mLを要した。

 

<実験2>

食酢を正確に5倍に薄めた水溶液をつくり、その10mLを<実験1>で濃度を求めた水酸化ナトリウム水溶液で滴定すると、中和点までに15.0mLを要した。食酢の密度を1.0g/cm3とする。

 

薄める前の食酢中の酢酸のモル濃度と質量パーセント濃度を求めよ。

 

この問題では2つの実験が行われています。最初の実験では、正確に濃度を調整したシュウ酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、中和点までの滴下量から水酸化ナトリウム水溶液の濃度を算出します。次の実験では、5倍に薄めた食酢(酢酸水溶液)に濃度を算出した水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、中和点までの滴下量から酢酸水溶液の濃度を算出し、薄める前の食酢中の酢酸の濃度を算出します。

ここで、一つの疑問が出てきます。それは、初めから正確な濃度の水酸化ナトリウム水溶液を調整して、酢酸水溶液に滴下すれば一度の中和滴定の実験で済むのではないかという疑問です。しかし、この方法はうまくいきません。理由が分かった方も多いと思いますが、固体の水酸化ナトリウムを秤量して正確な濃度の水酸化ナトリウム水溶液を調整することは難しいのです。固体の水酸化ナトリウムは、空気中に放置すると水分を吸収してしまいます。これは潮解性といいます。さらに空気中の二酸化炭素とも反応してしまうため、正確な秤量が難しいです。この辺のことは試験でよく問われます。また、塩酸や硫酸も濃度の変化が起こりやすいです。

中和滴定の実験では、2つの水溶液を用意しますが、片方は正確に濃度が調整されている水溶液で、もう片方が濃度不明な水溶液になります。このとき正確に濃度が調整されているはずの水溶液の濃度が正確でないと、もう片方の水溶液の濃度も正確に算出できないことになります。そのため、この問題で行っているように、まずシュウ酸水溶液を用いて水酸化ナトリウム水溶液の濃度を算出して、その水酸化ナトリウム水溶液を用いて酢酸水溶液の濃度を算出しているわけです。この問題のシュウ酸二水和物のように中和滴定の出発点になる物質を標準試薬といいますが、この標準試薬として適した物質は限られていて、その一つがシュウ酸二水和物というわけです。

標準試薬として使用できる物質としては、以下のような性質があることが条件です。

 

1.純度が高いこと(精製しやすく純粋な状態で入手しやすいこと)

2.空気中で安定していること(保存がしやすいこと)

3.分子量が大きめであること(秤量がしやすく、誤差が出にくいこと)

 

このような条件に当てはまる物質はいくつかあるのですが、その代表的な物質がシュウ酸二水和物です。シュウ酸二水和物の他には、シュウ酸ナトリウムや炭酸ナトリウムなどもあります。実際に食酢中の酢酸の濃度を算出するには上記のような実験をすることになりますが、大学入試の問題を作成される先生方は化学の分野のプロなので、この問題のように、実際に行われる実験方法に沿って問題が作成されることが多いです。高校で行われる化学実験には限りがありますから、いろいろな入試問題に接していると、こういうふうに実験をするのかと気づかされることも多いと思います。受験生の皆さんはあまり余裕がないかもしれませんが、入試問題を解くときに、いろいろな観点から興味を持って問題に接すると面白いと思います。

 

ちなみに上記の問題の答えは、0.74mol/L 4.4%となります。家庭にある食酢中の酢酸の濃度は大体このくらいです。酸化還元滴定の標準試薬

 

 

シュウ酸水溶液は還元剤としての性質もありますから、酸化還元滴定の標準試薬としても使用できます。化学の教科書に記載されている酸化剤としては過マンガン酸カリウム水溶液が有名ですが、例えば、水質検査として試料水のCOD(化学的酸素要求量)を算出するのには、過マンガン酸カリウム水溶液などの酸化剤を用いた実験を行います。このとき過マンガン酸カリウム水溶液は熱や光で分解するので、濃度が変化することがあります。そこでシュウ酸水溶液などの標準試薬を用いて過マンガン酸カリウム水溶液の濃度を算出してから使用することになります。酸化還元滴定の計算には半反応式が必要ですが、シュウ酸の還元剤の半反応式はしっかりつくれるようにしておきましょう。ちなみに、シュウ酸は酸化されて二酸化炭素になります。

最後に

最後に実験の仕方についての問題を上げておきましょう。

 

<実験>

河川水のCODを測定するために以下のような実験を行った。採取した河川水100mLに5.0mol/Lの硫酸を加え、a mol/Lの過マンガン酸化カリウム水溶液をx mL加えた。この溶液を30分間沸騰させ、すぐにb mol/Lのシュウ酸ナトリウム水溶液をy mol/L加えた。この水溶液を過マンガン酸カリウム水溶液で滴定したところz mLを要した。過マンガン酸カリウム水溶液は赤紫色であり、これが還元されるとほぼ無色となる。

 

この実験においてシュウ酸ナトリウム水溶液で滴定せずに後から過マンガン酸カリウム水溶液で滴定している理由を述べよ。

 

酸化還元滴定の実験では、中和滴定のときのフェノールフタレインやメチルオレンジのような終点を示す指示薬がありませんから、溶液の色の変化などから終点を決めることになります。シュウ酸ナトリウムで滴定した場合、コニカルビーカーの中の溶液の色が赤紫色から無色になるときを終点とすることになりますが、こういう実験では、終点がはっきりせずに誤差が出やすくなります。そこで、シュウ酸ナトリウム水溶液を多く入れて、過マンガン酸カリウム水溶液で滴定すると、コニカルビーカーの中の溶液の色は無色から赤紫色に変わるので、わずかに色が残るときを終点とすればより誤差は少なくなります。

 

(甲府駅北口校N.S先生)

 

前回の記事はこちら(入試で役立つ化学 油脂について)

 

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