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入試で役立つ化学 油脂について
2025年01月25日
今回は油脂について書いておこうと思います。
高校化学の教科書を開くと、植物性の油脂として、ひまわり油、大豆油、ごま油、オリーブ油、動物性の油脂として、豚脂、牛脂が記載されていました。
油脂は食品だけでなく、さまざまな用途で利用されています。具体的には、油絵の具、塗料、食用、化粧品などです。
油脂は3価のアルコールであるグリセリンの3つのヒドロキシ基に、高級脂肪酸(炭素数の多いモノカルボン酸)3分子がエステル化により結合した化合物です。すなわち、油脂はエステルなので、エステルの性質をおさえておく必要があります。
ちなみに、天然の油脂を構成する高級脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が多く、パルミチン酸とステアリン酸は炭素・炭素間の二重結合を含まない飽和脂肪酸で、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸は炭素・炭素間の二重結合を含む不飽和脂肪酸です。
1.エステル化
オキソ酸(カルボン酸などの酸素を含む酸)とアルコール(またはフェノール類)に濃硫酸を加えて加熱すると、脱水してエステルと水ができます。
この反応がエステル化です。
例えば、酢酸(カルボン酸)とエタノール(アルコール)が反応して、酢酸エチル(エステル)と水ができます。
エステル化では水が生成しますが、生成する水に含まれる酸素原子はカルボン酸から来ていることがわかっています。
これも覚えておきましょう。
ここで、エステルの名前の付け方ですが、上の例のように、酢酸の水素がエチル基に置換したと考えて酢酸エチルという名前になります。
つまりエステルは〇〇〇〇酸□□□□と命名されます。
また、エステル化は可逆反応なので、エステルの収率を上げるには平衡を移動させる必要があります。
2.加水分解
エステル化の逆反応は加水分解と呼ばれます。
一般的にエステルは水に溶けにくく、エステルと水だけでは反応が進まないため、酸を用いて加水分解を行います。
油脂に酸を加えて分解すると、グリセリンと高級脂肪酸が生成します。
ただしこれも可逆反応なので、反応物と生成物がある割合で平衡状態になり、反応物のすべてをグリセリンと高級脂肪酸にすることはできません。
3.けん化
エステルの加水分解をより効率的に進めるために、エステルを強塩基と反応させるのがけん化です。
強塩基としては主に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを使用されます。
これは可逆反応ではなく、油脂が高級脂肪酸の塩とグリセリンに分解され、さらに強酸を使って高級脂肪酸を遊離することができます。
4.香料としても利用
エステルはフルーティーな香りを持つ物質が多く、酢酸エチルは果実の香り、酢酸イソアミルはバナナの香りなど、香料としても利用されています。
1.融点の違い
油脂の性質を考えるには、まず結合している高級脂肪酸の種類を考えます。
特に高級脂肪酸の炭素・炭素間の二重結合の数が性質を決めるポイントになります。
炭素・炭素間の二重結合をもたない高級脂肪酸を飽和脂肪酸、
炭素・炭素間の二重結合をもつ高級脂肪酸を不飽和脂肪酸といいます。
油脂を構成する高級脂肪酸は直鎖状で、不飽和脂肪酸の場合、途中にある炭素・炭素間の二重結合はシス型になる場合が多いため、
二重結合のところで炭素鎖が曲がることになります。
そのため、不飽和脂肪酸を含む油脂の場合、形状的に分子間にすき間ができやすく、分子間力が弱くなり、融点が下がることになります。
つまり、不飽和結合が少ないと融点が上がり、常温で固体となります。
それは脂肪(ファット)と呼ばれます。
不飽和結合が多いと融点が下がり、常温で液体となります。
それは脂肪油(オイル)と呼ばれます。
2.水溶性
油脂は一般的に炭素の数が多く、極性の小さな結合が多いので、水には溶けにくいです。
3.不飽和結合の酸化
高級脂肪酸の炭素・炭素間の二重結合は酸素に触れると酸化されて、分子同士が重合し、固化します。
二重結合が多く、固化しやすい油脂を乾性油といいます。
また、固化しやすさにより、乾性油、半乾性油、不乾性油に分類されています。
4.不飽和結合に水素を付加
高級脂肪酸の炭素・炭素間の二重結合に触媒を使用して水素を付加して、
二重結合を少なくすると、融点が上がり固化します。
このような固体の油脂を硬化油といいます。
硬化油の例としてマーガリンがあります。
油脂を強塩基と反応させてけん化すると、グリセリンと高級脂肪酸の塩ができます。
これがセッケンです。
ナトリウム塩の場合はソーダセッケン、カリウム塩の場合はカリセッケンと呼ばれています。
高級脂肪酸の塩は、極性の少ない疎水性の部分と極性の大きい親水性の部分を持つために、水と混じりにくい油滴を疎水性の部分で取り囲み、親水性の部分で水と混じり合います。
セッケン分子が油滴を取り囲んだ構造をミセルといい、水と混じり合う作用を乳化作用、この溶液を乳濁液といいます。
セッケン水は塩基性で、天然繊維を痛めてしまうこと、さらにカルシウムやマグネシウムを多く含む硬水中では沈殿をつくってしまうことがセッケンの弱点です。
この点を改良したのが合成洗剤です。
合成洗剤は強酸由来のスルホ基の塩なので中性で、硬水中でも沈殿をつくりません。
油脂の性質を表す指標を上げておきましょう。
けん化価とヨウ素価です。
けん化価は、油脂1グラムをけん化するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数を示す値です。
油脂は3つのエステル結合を含んでいますので、けん化には、油脂1モルにつき3モルの水酸化カリウムが必要です。
水酸化カリウムのミリグラム数が大きいと油脂の平均分子量が小さくなります。
つまり、けん化価は油脂の平均分子量の大小の目安になります。
ヨウ素価は、100グラムの油脂に付加するヨウ素のグラム数を示す値です。
炭素・炭素間の二重結合1モルに対して1モルのヨウ素が付加します。
この値が大きいほど不飽和結合が多いことになります。
けん化価とヨウ素価は反応式のモル計算として出題されることも多いので、しっかり練習しておきたいところです。すいので、ひとつひとつ丁寧に覚えておきましょう。
(甲府駅北口校N.S先生)
前回の記事はこちら→入試で役立つ化学 カルシウムについて
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