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入試で役立つ化学 エンタルピーについて
2023年12月02日
今回はエンタルピーについて書いておこうと思います。
これまで「入試の化学で役立つ」ことを書いてきましたが、
今回の話は直接入試では役立たないかもしれません。
前回の記事はこちら→(入試で役立つ化学 アルミニウムについて)
これまでの化学の教科書では、化学反応や状態変化の際の熱の出入りについては、熱化学方程式という方法で表現されてきました。
これは、数十年前からずっと高校の教科書で教えられてきた方法ですが、大学に進学して化学を学ぶと、この方法はあまり重視されていないことに気がつきます。
これまで高校では、化学反応の前後の熱の出入りを反応熱としてとらえて、燃焼する物質1モルが酸素と化合して燃焼するときの熱を燃焼熱、1モルの水素イオンと1モル水酸化物イオンが反応するときの熱を中和熱、生成物1モルがその成分元素の単体から生成するときの熱を生成熱といい、
また、化学反応ではありませんが、物質1モルが多量の水に溶解するときの熱を溶解熱といい、液体の水1モルが気体の水蒸気1モルに状態変化するときの熱を蒸発熱などと呼んできました。
しかし、新しい教科書ではこれらを燃焼エンタルピー、中和エンタルピー、生成エンタルピー、
溶解エンタルピー、蒸発エンタルピーといい、反応熱は反応エンタルピーと表現しています。
新しい教科書ではエンタルピーに加えて、発展事項としてエントロピーやギブズの自由エネルギーにも言及しています。
これによって、化学反応ごとにその反応が自発的に進みやすいのか進みにくいのかの判断ができるようになるというわけですが、このあたりに新しい教科書にエンタルピーが入った理由があるのかもしれません。
さらに、エンタルピーを導入したことで大きく変わったこととして、熱の出入りの方向のとらえ方が180度変わりました。
これまでの熱化学方程式の方法では、反応系から外界へ熱が放出される発熱をプラスとして、
反応系に外界から熱が吸収される吸熱をマイナスとして、扱ってきました。熱化学方程式の熱量の数値がプラスなら発熱、マイナスなら吸熱でした。
しかし、エンタルピーの考え方では、反応系から外界へ熱が放出される発熱の場合、エンタルピーがマイナス、反応系に外界から熱が吸収される吸熱の場合、エンタルピーがプラスとなり、熱の出入りの方向の考え方が逆になっています。
いずれにせよ、大学に進学して化学を学ぶ学生にとっては、これまでより、高校の化学から大学の化学への移行がかなりスムーズになったと思います。
化学反応や状態変化の前の状態量としてのエンタルピーと化学反応や状態変化の後の状態量としてのエンタルピーとの変化量として熱をとらえることになりますので、エンタルピーが増加する反応は吸熱、エンタルピーが減少する反応は発熱となります。
また、固体や液体の反応の場合は、あまり環境の条件に左右されないのですが、気体の場合は環境の条件、すなわち体積一定の環境で起こった反応なのか、圧力一定の環境で起こった反応なのかといった環境によって出入りする熱量に大きな違いが出てきます。
詳しいことは熱力学の分野になりますが、エンタルピー変化は定圧の環境で起こった変化の状態量として定義されています。今回熱をエンタルピー変化としてとらえることは、高校の化学で扱う化学反応や状態変化は大抵、定圧(大気圧)の下で実験が行われることが多いからだと思われます。
高校の物理との関連で考えると、高校の物理の教科書にも登場する熱力学第一法則は、反応系の環境によらず、以下のような式で表されます。
(系の内部エネルギー増加量)=(系が吸収する熱量)+(系が外界からされる仕事)
これを変形して
(系が吸収する熱量)=(系の内部エネルギー増加量)+(系が外界にする仕事)
とすると、この式がエンタルピー変化を表しているということになります。
この式では外界から系への熱やエネルギー、仕事の移動をプラスとしていますので、熱力学との整合性を考えるとエンタルピー導入は自然な方向性かなとも思います。
新しい教科書にエンタルピーが入ったことについては様々な意見があることと思います。
熱に比べてエンタルピーという言葉は日常生活ではほとんど出会うことがなく、高校生にはイメージがわきにくい物理化学の専門用語なので、教育現場では、エンタルピーのイメージ作りが大切になるのではないかと考えます。
また、新しい教科書にはエントロピーも記述されていますので、今後大学入試に出題されることが考えられます。受験生には大変かもしれませんが、私個人としては今後の大学入試問題にどのように反映されるか期待する気持ちもあります。
(甲府駅北口校 N.S先生)