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山月記には今の自分に必要な生きるヒントが隠されている?
2023年06月10日
山月記は高校教科書での最高掲載回数を誇るともいわれている「人虎伝」という中国のお話をモデルにした短編小説です。今回はこの小説を単に定期テスト対策として解説するだけではなく、私たちに必要なメッセージについて読み解いていこうと思います。
前回の記事→《梶井基次郎「檸檬」解説》
私たちは必要以上に自分自身にこだわってしまったり、他人からの目線や言動に敏感に反応してしまうという経験はないでしょうか?「こんなはずじゃなかったのに」という言葉は、理想としている「今の自分」とかけはなれてしまったときに、ついつい出て来てしまうものです。
これこそが、「自意識」という問題です。
そして「自意識」は、「苦しみ」の元凶だと考えられています。
家庭の中での自分の立ち位置、学校における友人関係、更には恋の問題…など。周りの人たちとの関係の中で劣等感をおぼえ、自分に嫌気がさしてしまうこともありますよね。
そんな「苦しみ」を抱えているとき、庭をかけ回る犬や、こたつで丸くなっているネコを見て、いっそヒトになんか生まれて来なければ良かった、と思うことはありませんか。
中島敦の『山月記』は、まさにこの「自意識」を抱え、「苦しみ」を抱く者を描いた古典です。この主人公は、イヌやネコではなく「虎」になってしまう訳なのですが、では「虎」になることで、はたして苦しみから抜け出せるのでしょうか。そんな視点から見てみると、この古典の本質がよくわかるのではないでしょうか。
ではなぜ李徴は虎になってしまったのでしょう。虎以外の他の動物では描かれなかったのはなぜなのでしょうか。
本文から述べられている一番の理由は「臆病な自尊心と尊大な羞恥心により、自分の中の猛獣を制御できなかったため」であるでしょう。
しかし、別の視点から見てみると、「虎」という動物は中国では百獣の王と呼ばれ、古くから権力の象徴として表現されてきました。その華やかな面もありながら犬や馬のように群れで生活することはなく、虎には一種の「孤独」や「寂しさ」といったものも感じ取ることができます。
このことから李徴の内側にある「自身の強さへのあこがれ」「自己顕示欲の強さ」「周囲と一線を引く孤独さ」といった感情が膨れ上がり「虎」という生き物になったのではないでしょうか。
自意識の強さゆえの苦しみは、失敗や挫折などの体験を通して、大人になった今でもふいに姿を現すことがあるものです。勉強や部活、そして友情や家族のことなど、自分自身が考える理想と現実のギャップで苦しんでいる人にこそ、『山月記』はオススメです。『山月記』の主人公のように心を失う前に、ほどよく「自意識」と付き合いながらも、それをバネに次なる一歩を踏み出すヒントが得られるかもしれません。
いかがだったでしょうか。テスト対策以外の小説の読み取り方。
作品の中に込められたテーマや伝えたいことを深堀りすると、今の私たちに必要なヒントを得られるのが文学作品の素晴らしいところです。
文学作品の本当の楽しみ方を知り、その世界にゆっくり浸かってみるのも楽しいですよ。
(山梨市駅前校 Y.O先生)
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